上顎洞挙上術(サイナスリフト)
術前の状態、治療計画
患者 70代 男性
主訴 紹介医より上顎洞底挙上術を依頼され来院
診査診断 上顎歯槽骨頂より上顎洞底までの距離が短く骨移植が必要と診断。上顎洞底挙上術を行い6ヶ月後にインプラントの埋入を行うこととした。
第1段階 上顎洞底挙上術
上顎洞底挙上術について説明
患者さん向け
上あごの奥歯の部位には副鼻腔という空洞があります。
この空洞のため上あごの骨の高さは制限されます。
よく患者さんでインプラントできないと医者に言われたという方がいます。
厳密にいうとインプラントのための骨移植術(上顎洞底挙上術)をその先生ができないということです。
インプラント治療自体は、副鼻腔の疾患さえなければ可能なことが多いです。
上顎洞粘膜は薄い膜ですのでそれを綺麗に剥離しその間に骨移植材をいれます。そうすることでインプラントを埋入するのに必要な骨の高さができます。
上顎洞底挙上術の骨移植剤には他種骨と他家骨を混ぜて使っています。
顆粒の粒子も少し大きめのものを使用しています。
詳細はホームページのチャートをご覧下さい。
歯科医師向け
1976年に上顎無歯顎患者の臼歯部におけるインプラント治療の1つの選択肢として、Hilt Tatumによって上顎洞底挙上術が発表され、1980年にBoyne PJ, James Rにより論文として発表され約32年の歳月が流れた。上顎洞の挙上方法は上顎洞側壁からのLateral window techniqueとSummers RBにより発表された歯槽骨頂からのOsteotome techniqueに大別される。
Lateral window techniqueは上顎洞側壁の開窓、上顎洞粘膜の剥離•挙上、移植骨の填入が必要となるが、直視下での上顎洞粘膜の挙上が可能であり骨を十分に造成することができる。一方、Osteotome techniqueは外科的侵襲は少ないものの、十分な骨を造成することができず、直視下で上顎洞粘膜の挙上が行えないためTan WCらによると〜21%の確率で上顎洞の穿孔が起こる。
Smiler DGらによると歯槽骨頂より上顎洞底への距離が3mm以下の場合はLateral window technique による2 stage approach、3~7mmの場合はLateral window technique による1 stage approach、7mm以上の場合は歯槽頂からのapproachを推奨している。
Lateral window techniqueにおける上顎洞側壁の開窓法には従来のバーを用いた方法、Piezoを用いた方法が挙げられるが、Lozadaらは2011年に第3の方法としてDask system を用いた方法を発表した。今回はロマリンダ発のDask systemによる低リスクLateral window techniqueを紹介する。
上顎臼歯部の補綴主導型インプラント治療では、直径4.0mm以上で10mm以上のインプラントを正しい位置•角度に埋入することが理想である。インプラント埋入予定部位の歯槽骨が高度の吸収をきたしている症例ではLateral window techniqueの適応である。術前にCTによる画像診断を行い、上顎洞の解剖学的形態や病変の有無、診断用ワックスアップにより作製された診断用テンプレートにてインプラントの埋入位置を確認することがきわめて重要である。解剖学的形態として第一に確認しなければならないのは後上歯槽動脈である。Jungらによると52.8%の無歯顎患者は後上歯槽動脈を有しており第一大臼歯部位では歯槽骨頂から後上歯槽動脈までの距離が最短であり平均14.79mmであった。64.5%の無歯顎患者は後上歯槽動脈を有しておりそのうち68.2%は骨内に存在し平均直径は1.3±1.5mmであった。よって術前に血管の存在•位置を確認し、それに基づき上顎洞側壁の開窓のデザインを決定するべきであり、やむなく開窓デザイン内に血管が走行している場合は術前に止血の準備をしておくべきであろう。しかしDask systemのDrill形状は滑らかであり、インターナルイリゲーションとエクスターナルイリゲーションを採用しているため、骨の熱傷や術野の確保に優れ、血管損傷リスクを軽減できる。
第二に確認しなければならないのは隔壁の存在•位置であり、Neugebauerらによると33.2%の上顎洞に隔壁は存在し、第一大臼歯部に最も多いとしている。このような場合、従来までは開窓部位を2つ作り対応していた。
Dask systemの最大の利点は隔壁が存在していても上顎洞側壁の開窓デザインを変えることなく適応できる点である。Barone Aらはpiezoとバーを用いた際の上顎洞粘膜の穿孔、所要時間を比較したが優位差はなかった。ロマリンダ大学のデータ(Nov,2008-Aug,2009)によると、27症例に対しDask system を適応した1症例にのみ上顎洞の穿孔を認めた。また上顎洞の頬舌幅の狭い部位ではTrap door techniqueを適応することが難しいが、Dask systemは適応できる。